喫茶店や飲食店などの店舗数データとして、厚生労働省「衛生行政報告例の概況」にある営業施設数を使いたい場合があると思います。
これは毎年報告され、また、具体的な営業許可発行数ベースの業務統計であるため、調査統計である「経済センサス」より直近のものを利用できます。また、調査データではないので、未回答者の欠損や回答に伴うバイアスがなく、より正確なデータであることが期待できます。
一方で、「衛生行政報告例」のデータは各種の許可数に基づく数値のため、本当に営業しているのかどうかがわかりません。またより重要なのは、後述のように特定カテゴリーの許可と実際の業種が一致しないので、見ても意味が分からないデータになっています。
「飲食店」「喫茶店」「そうざい製造業」などの個別の許可について、それぞれなんの業種を指すのか、きちんと調べる必要があります。
ここでは、平成30年度「衛生行政報告例の概況」食品関係営業施設のデータの見かたについてまとめています。
営業許可制度に基づくデータの特徴
まず、下記厚生労働省の資料を元に、営業許可制度の現状の課題について見ていきます。そのうえで、データをどう見たらよいかを考えることにします。
「★資料1 営業許可業種見直しの論点に関する主な意見及び対応方針案」
※いずれもpdfファイル
現在の営業許可は昭和47年(1972)のもの
現在の営業許可34業種は昭和47年以降見直しがなされていません。
昭和47年といえば、セブンイレブン1号店が開店(昭和49年)する前になります。スーパーなどの複合的な業種もそれほど多くなかった時代であり、八百屋、魚屋、パン屋など、単一業種のお店が集まった商店街がまだまだ重要な買い物拠点だった頃です。
1店舗が複数の許可を得ていることが普通
上記34業種の制定当時と異なり、現在はコンビニ、スーパーをはじめいろいろな商品を取り扱う店舗が主になっています。そのため、許可数から実際の店舗数を類推しにくくなっています。
たとえば、コンビニであれば、扱う商品によっては「飲食店営業、菓子製造業、食肉販売業、乳類販売業、魚介類販売業」の5つの営業許可が必要になるとされます。この場合、コンビニとしては1店舗でも、結果としてそれぞれの許可店舗数に算入されていることが考えられます(上記資料による)。
また、牛乳、肉、魚をおいていないスーパーはほぼないと思いますが、結果として「乳類販売業」「食肉販売業」「魚介類販売業」は互いに4割以上が重複になっているようです。全国の小売スーパーの数を思えば、むしろもっと重複率が高いはずではないか、とも思えます。
具体的な基準が自治体により異なる
さらに解釈を面倒にするのは、自治体が個別に定める条例等により、具体的な認可基準が異なることです。
たとえば、コップ式自動販売機を設置するには喫茶店営業許可が必要です(たまに自動販売機のそばに営業許可証が掲示されていることがあります)が、必要ない自治体もあるようです。
この場合、都道府県間でデータを比較して良いものかどうかが問題になります。同じ形態で営業している店舗も、場所によって許可の要不要が変わる場合は正しいデータになりません。
そもそも「施設数」の定義自体が不明
2020年4月現在、「衛生行政報告例」では、具体的な「施設」の定義が明示されておらず、これも問題です。
たとえば、業種が重複する場合、どちらかにカウントするのか、それともより代表的な1施設にまとめるのでしょうか。スーパーなどの場合は難しそうです。
また、固定施設の通年営業ではなく、イベントなどで食品販売を行う場合に許可を取る場合は1施設とカウントされるのでしょうか。これも不明です。
あえて「衛生行政報告例」店舗数を使うケース
絶対数を見る場合は「経済センサス」がより確実
上記のように見ていくと、「衛生行政報告例」によって特定業種の店舗数を見ることはやはりできないように思えます。特定業種の店舗数の絶対値「全国に何軒あるか?」を見る場合は、やはりその目的で作成されている「経済センサス」を利用するほうがより確実です。
一方で、定義の安定性や毎年更新などのメリットを考慮して、以下の目的では使うことができると思います。
特定許可数の推移を見る
「衛生行政報告例」は特定許可数の推移を見るために取得していると考えられます。そのため、これは厚生労働省のデータ作成目的にも合った正しい使い方と言えそうです。この場合は厚生労働省のページにあるデータをそのまま利用することができます。
特定地域の分析に使用する
何に許可を与えるかという適用自体が異なるため、店舗数の全国一律比較は無理そうです。一方、同じ地域であれば、同じルールが適用されている範囲では相互に比較可能です。
特定食品を取り扱う施設数を業種間で比較する
たとえば、乳製品を販売する店舗数を肉や魚を販売する店舗数と比較する場合で、これは経済センサスではつかむことができません。自治体ルール次第なので難しいですが、絶対数を問わなければ、大まかな傾向はつかむことができるでしょう。
特定の傾向や変化を見るという場合は、(許可の下りやすさ等はあるものの)定義自体が変動していない分、安心して使える側面はあります。
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